神秘の大樹だいじゅ
 田之助たのすけとミロクの亀 



要点・概要

旅の先々で続く「意図的な」亀との出会い…
魂は出会いの縁を結び
出会いの縁は運勢運命を運ぶ

本書「帯」記載の文言より

 

酒乱を乗り越え、自分のいのちに目覚めて間もない著者が、心おもむくままに訪れた旅先で次々と出会う「亀」。体験の記録を、第2巻と共通するシナリオ形式のコミカルな物語として展開し、縁は単なる偶然ではなく、宇宙根源に根ざす生命の本質(真性魂)による道案内だと伝えています。

 

「人生にむだな体験はひとつもない」とよく言います。つきつめると、それはどういう意味でしょうか。あとでふり返ると、あらゆる経験は一本の線でつながる「点」だったということがよくありますが、それはなぜなのでしょうか。

 

物語(印刷版:全324ページ)
著者略歴:閲覧コンテンツ内

 

本文からの抜粋

心は宝 いのちの宝

本書まえがきの一節

 

まえがき

 

(1)そうよ そうよ

   田之助くんは

   助けた亀に

   つれられて

   心の旅に出てみれば

   世にも不思議な

   ことばかり

 

(2)文字や 数や

   色で逢う

   出会いを求めて

   どこまでも

   野越え山越え

   海越えて

   大亀 小亀と

   出会う旅

 

(3)引いて 引いて

   手を引いて

   肉体ないけど

   心で引いて

   いのちの船は

   出会い船

   万霊万魂

   守り旅

 


 その時、私は五六歳になっていた。亀の姿に身を変えた魂の誘いであったのか、やりきれない衝動にせきたてられて、目的のない放浪の旅に出たのは、断酒五年目の、平成二年六月のことであった。

 旅に出た当日には、手招き姿の海亀と出会い、その翌々日には、国道を横切ろうとしていた小さな亀と出会い、農薬を心配した私は、近くのお寺の池に放したのである。

 それからというものは、旅の先々で、いかにも意図的に亀との出会いが続くようになった。

 まるで、現代版の浦島太郎の世界に入っていたのかもしれない。

 そこには、計り知れない異次元世界が広がっており、それが私の心の世界と共振共鳴しながら、出会いの縁を重ねる旅となった。

 そうした数々の出会いに秘められた縁結びのメカニズムを、いのちの中で、今、私たちの心と亡き方々の魂は、どのように働きかけ合っているのかを私なりに浮き出してみたのである。

 本文全てにわたり、シナリオ文体で表現させていただいた。

 登場スタッフは、天の声・ナビ大王・かずたま姫・もじたまの皇子・いろたま姫・夢オヤジ・ミロクの亀・田之助(私)の八名である。

 ここで旅の流れにおいて忘れてはならないことを書き添えねばならない。出会いの縁には、必ずといってよいほど文字の響きがあり、数の響きがあり、色の響きがあるという事実。また、文字・数・色を意志伝達の媒体として介在させて、声なき声を発している事実。その声なき声の発生源こそ妻の精神世界と共振共鳴するいのちの世界だといえる。

 妻は、三〇年前から、いのちからの響きを文字に書いてきた。その文字のことを妻は「いただきもの」と呼んで来た。また、その頃から、偶然の一致といわれている「共時性現象」がしきりに発生するようにもなった。その内容は「文字・数・色」に響かせて、声なき声のいのちの響きとなっていた。

 これまでに、その文章は、数万点に及んだが、今はそのほとんどが消滅している。その中で、私が追い求めてきた「いのちとは何ぞや」という命題に、一大ヒントを与えてくれた文章があるので、本書の「あとがき」で紹介させてもらった。

 妻は三〇年前のある日を境にして、頭の中が空白感でいっぱいとなり、現実世界観からは大きく隔たり、無私の世界となり、「生死の境」もなくなり、死んでも生きている心の世界が展開されてきた。そのような流れの中で、私の放浪の旅が始まったのであり、それはまた、妻の世界を学ぶ体験学習の旅でもあった。

 数千例の共時性現象体験を通して、出会いの縁と、その発生メカニズムを、「人は死すとも、心は生きている」という確かな証しを、得ることができたのである。

 本書は、その証しの一端である。

 

心は成長する

心が成長して魂となる

魂は出会いの縁を結ぶ

出会いの縁は運勢運命を運ぶ

心は宝 いのちの宝

 

平成二十四年新緑 富士宮市猫沢にて 著者 菅原 茂

 

 

 

神秘の大樹Ⅳ 目次

 

まえがき

前編―旅立ちから屋久島へ

中編―鹿児島から三重へ

後編―岐阜から帰還へ

あとがき

巻末付記

 


前編―旅立ちから屋久島へ

 意識を変えようと思ったのは昭和六一年一月のことでした。そして、すでに五年の歳月が過ぎていました。意識を変えるといっても、それにはそうせざるを得ない波乱の生きざまがあったのです。

 意識改革は、心の内界により一層深く潜入してその扉開きを押し広げてゆかねばなりません。そこは現実とうって変わって、宇宙感とも生命感ともいえる世界で答えの出しようもない世界です。

 動と静の交錯する息づかいが迫ってきます。それを自覚しつつ再び浮上して現実意識へと戻ってきます。

 このように、現実世界と内界の生命世界を往来しているうち、その往来の繰り返しがある種の精神的葛藤となり、抑圧できない激情すら伴い、家を飛び出す衝動に駆り立てられたのです。平成元年も今回と同じようにして四一日間の放浪の旅に出たのでした。

 今回もまた、妻には無断の放浪なので、帰るまでは一切連絡をしない覚悟で出発することにしました。平成二年六月一九日・火曜日・午前四時五〇分の早朝、車を乗り出した私の姿は、はたから見れば全く滑稽そのものだったにちがいありません。

 それからどれほど走ったでしょうか、私は全身から静かではあるけれど次第に意識の薄れてゆく感じに包まれていました。

 ハッと気が付いたとき、凄い圧力でハンドルの両の手がぐるりと左に回転したかと思うと、不思議なことに走る視界はがらりと異次元世界に急変していました。

 私の体がふわりと浮いたかと思うと、そこはすでに乗っていた車ではありませんでした。私は黄金に輝く舟の中に立っていたのです。

 目に見える周囲の風景はありません。海も山も川もなにもかも見当たりません。あるのかないのかもわかりません。それは、舟の輝きですべてが打ち消されていたのです。

 すでに私は私ではありませんでした。舟は凄いスピードで飛んでいるようです。

 どれほど過ぎてからでしょうか、頭上から一斉に鈴の音が鳴り響きだしたかと思うと、次の瞬間ぴたりと鳴り止みました。すると、深遠のかなたからエコーのきいた太い声が聞こえてきました。

天の声「やあ、

よく来てくれたなあ
ここがどこであるか君にわかるかな
これからはしばしの間一緒に旅をすることにした
そこで君にこの世界を少し紹介しておくことにしよう」

 声はそう言ったかと思うと、急に消えてしまいました。

 舟の中央では、私であって私でない私が立っています。不思議と静かで迷いすらありません。ただ私はいったい誰なのかと考えています。その時再びエコーのきいた声が響きわたりました。

天の声「やあ、待たせたなあ

それじゃこれからのことを少し話しておこう
今君が乗っている舟は〝いのち舟〟といって
この舟をさえぎるものは何一つない
いのちは光だ
海でも山でも大地でも通行自在の舟だから安心するがよい
それから君には見えるかどうかわからんが
いのち舟には、わしの使いの者を乗せておいたから
安心して話し合うがよい
舟の舳先にいるのは〝ナビ大王〟という先々のことがわかる君の道案内を受け持つ責任者だ
君のうしろには〝かずたま姫〟が乗っている
君は知って居ると思うが、このいのちの世界は
数霊によるひびきがこの世界の安定のために
中心となる働きをしているものだ
かずたま姫は数霊にくわしい方であるから
充分話を聞くようにしなさい
また、時によっては〝もじたまの皇子〟と〝いろたま姫〟が乗り降りするから仲良くするように…
さて出発する前に覚えてもらいたいのは
君の名前のことなんだが、
このいのち舟では〝田之助〟という名に変えておいた
確か現実世界では〝茂=しげる〟と言っていたなあ
その名前も役に立つこともあるから忘れんようにしなさい
さて最後にこのわしのことだが
〝いのち舟の持ち主〟じゃよ…
天の声とでも覚えておくがよいだろう。以上であるぞ
それじゃナビ大王出発進行せよ」

 天の声が合図を出すといのち舟は一段と光を輝かせてスピードを上げていきました。

 いのち舟の田之助は、若々しい好奇心にあふれた青年でした。

 田之助はナビ大王に話しかけてみました。

田之助「ナビ大王

聞こえますか?」

ナビ大王「田之助くん

何か用ですか?」

田之助「ここは

どのあたりでしょうか」

ナビ大王「ここは

新潟県に入ったところでぶどう峠の中ほどです」

 その時、うしろから響きを上げて大型トラックが追い越していきました。

 田之助は現実世界からの客人であるから、追い越しなどは一切気にしません。またいのち舟にはあらゆる電子装備があるので、追い越したトラックナンバーはモニター(監視装置)に映し出されます。そこには「青森 88−405」と出ていました。これを見た田之助は驚きました。

 その様子を後ろで見ていたかずたま姫は、

かずたま姫「あら田之助さん

あなたが奥さんに無断で出て来たときの
時間じゃないですか
四時五○分で出て来たことはお見通しなんです
トラックを使ってそのことを知らせたのよ
88は田之助さんのお米でしょう
また、405は出て来た四時五○分と一緒なんですよ」

 そう言われた田之助は、これはえらいことだと思いました。

 いのちの中ではなにもかもお見通しになっていることを知った田之助は、長い時間を考え込みながら無言で過ごしました。

 いのち舟はスピードをぐんぐん上げています。田之助がうとうとしていると、

ナビ大王「さあ

すぐに「寺泊」という海鮮市場まえに到着しますよ
そこで水族館を見ることにしましょう
下船はしなくてよいので乗ったままの見学ですよ
いのち舟は宇宙のいたるところまでも乗ったままで
旅をすることができるのです
どうですか田之助くん」

田之助「もうバッチリ

目が覚めました。うれしいなあ」

 田之助の喜びようはただごとではありません。

 いのち舟に乗ったままでコンクリート造りの水族館に自由に出入りできるなんて全身はちきれんばかりの喜びでありました。

キャプション: 手招き姿の海亀手招き姿の海亀ナビ大王「ほら田之助くん

見てください
手を振って海亀が歓迎していますよ
かわいいでしょう」

田之助「大きいなあ、

海亀くんこんにちは」

 田之助は目を輝かせて海亀にあいさつをしました。

ナビ大王「田之助くんは

いのち舟のように輝いているから私も嬉しいです
旅は始まったばかりですから
今夜は少し先のところで休むことにしましょう
その前に良寛和尚に逢っていきますが
田之助くんはどうしますか」

田之助「おねがいします」

 ナビ大王がそれじゃあと言ったかと思うと、いのち舟はすでに良寛記念館の中におりました。

 ここでは数人の観光客が館長の説明を受けていました。途中から入った田之助も舟に乗りながら一緒になってお話を聞いていました。観光客たちは田之助のいのち舟には何一つ気づいていません。

 館長は元々、町の教育長をされた荒木秀三という八四歳のお方でありました。荒木さんは良寛の人柄を一口で表すならば、良寛が弟の由之にあてた手紙を読むと一番よくわかると言いました。「それは、何事もそのことに落ちない心、片寄り過ぎない心、自制心と節度のある心を持つことが大切なのです」と、人の生き方を説いていることを説明していました。

 真剣に話を聞いていた田之助は驚きました。なんと館長の隣に、ころも姿の良寛和尚さんがニコニコ立っていたのです。その後ろにも四人の僧侶が並んでいました。さらに館長は話を続けています。

 良寛は、日本の五大仏教人の一人に上げられていることや親鸞上人、日蓮上人、道元禅師、弘法大師(空海)、そして、良寛和尚の五人それぞれについての話をしてくれました。

 話を聞いていて離れようとしない田之助でしたが、ナビ大王が出発の合図を送ると、いのち舟はあっというまに富山県に入っていきました。次は朝日町の小川温泉・天望閣前の路上にいのち舟の光を休めることにしたのです。

 その夜、田之助はどうしても寝付かれないでいましたが、やがてうとうとしはじめました。そのとき田之助の耳元に一匹の蚊が羽音をたててやって来ました。羽音が爆音に変わり、思わず田之助の手が蚊を打ち落とそうとしました。そのときハッと田之助の心にブレーキがかかりました。

 蚊も生きねばならないのです。食べる血をいただかないと死んでしまうのだと田之助は思いました。自分だって毎日ご飯をいただいて生きているではありませんか。蚊も自分も同じいのちの兄弟なのだと目を覚ましてしまいました。

「どうぞ、どうぞ!」

と、田之助は蚊に言いました。蚊から吸われる一滴の血液を惜しんで殺してはいけないのだと思い、吸われるままにして、互いに生きようといわんばかりに田之助は眠りにつきました。すると

天の声「田之助くん

よいことに気が付きましたね
でも、一○匹の蚊からお願いされたら
どうしますか」

と、耳元でささやくように優しく問うのでした。それを聞いて田之助は一瞬ぞくっとしました。そして、ひとりでに笑いが湧き上がって来たのです。

 実践のできない立派なことを言った田之助ですが、やはり、蚊は嫌だと思ったのです。徹底した犠牲心や奉仕の心がないことを悟り、たった一つの自分のいのちを大切に思いながら田之助は深い眠りについたのです。

 田之助は雨の音で目を覚ましました。初めてのいのち舟の旅で疲れたせいか熟睡をしたので、雨は降っているけれど心は爽やかでした。

 今日は六月二〇日水曜日です。目覚めるとふと豊女婆さんのことが田之助の心をよぎりました。この時、ナビ大王が声を発したのです。

ナビ大王「田之助くん、

出発しますよ
今、君は豊女婆さんのことを思っていましたね
お話するといいですよ」

 田之助にはそれが何のことなのか察しがつきませんでした。そのままいのち舟は出発しましたがその時午前四時五〇分になっていました。

 舟は国道八号線上を走っていきました。田之助はひそかに思いを巡らせました。「今日は二○日で豊女婆さんの月の命日だ。そして、今国道八号線を進行中。そういえば妻は八日生まれだ。そして、今朝の出発が昨日と同じ四時五〇分。これは数字が何かを諭して居るのではないか。いや、そんなことはありはしないだろう」。すると、姫がうしろから声をかけてきました。

かずたま姫「田之助さん、

あなたの思い全部聞いていましたよ」

 田之助は、独りで思っていたこと、わかるわけないのに、と不審そうにしていると、

かずたま姫「あら、

信じないのですか
こころに思うことが聞こえないでどうしますか
私達には安全弁があって、聞きたいときは聞けばいいだけのことですよ
いくら内緒にしていても全部わかるのですから
あなたが思っていた豊女婆さんと奥さんが今
隣に来ているのに気づかなかったのですね
今日は二〇日で豊女婆さんの月命日で
国道八号線と奥さんの八日生まれが共振する
あなたはそう思ったのでしょう。気持ちの優しい方ですね
でも、優しすぎても、すぎなくてもいけないし…
とにかく思うこと、特に数字のいのちは宇宙の源流
のようなものですから、まさしく現実世界に
その姿となって現れるということ覚えておいてくださいね」

 そう言ったかと思うと、かずたま姫の姿は消えていました。ところが、ナビ大王がその話を続けました。

ナビ大王「田之助くん、

びっくりしましたか
いのちの世界では、心がすべて姿となって
形を現わすんですよ
特に、数のいのちは、
この世界では日常語になっていることを
知っておくといいですよ」

そのとき、ナビ大王には何か大切な通信が入っている様子でした。それが終わると

ナビ大王「先々に用事がふえました」

と言って舟の速度を早めました。

 舟は、高山市の福来心霊研究所と福来博士記念館の前で一時停止をして、無言のあいさつを終え、白山スーパー林道を通り、夜遅く福井県の勝山市に到着しました。いのち舟は路上で静かに田之助を守りながら休んでいました。

 やがて夜も明けて、六月二一日木曜日になりました。勝山市を出発したのは朝の四時一二分です。

 四一二という数のいのちは、田之助にとって記念すべき数霊です。昭和三四年四月一二日は田之助の結婚記念日なのです。そのことは、ナビ大王もかずたま姫もいち早く察していました。それを知ってナビ大王はいのち舟を自動操縦に切り替えて出発したのでした。

 自動操縦になったいのち舟は、ナビ大王の調査書を元に操縦されます。ナビ大王は、田之助の心の内をくわしく調べておいたのです。田之助がこの旅で一番考えたいことは何か…また、何を知りたかったかを。

 ナビ大王は、田之助の心の中心に、いのちとは何か? 心とは何か? 共時性現象はどうして起きるのか? 縁のメカニズムについて…等が命題であることを知っていたのです。このことを田之助に知らせるにはどうしてもこのいのち舟に乗ってもらい、ナビ大王の案内のもと体験学習させることが一番であったのです。こうしていのち舟はナビ大王の調査書をもとに自動操縦で走り続けました。途中で田之助の心の片隅にあった永平寺に参拝をし、武生市の紫式部ゆかりの地にも立ち寄り、国道八号をスピードアップして京都方面に向けて進みました。

 敦賀市を経て途中から国道一六一号に入り、さらに国道三〇三号から国道三六七号へといのち舟は進みました。

 この国道をわずかに進んだときのことでした。ナビ大王はいのち舟を手動に切り替えました。いったいどうしたことかと田之助は興味津々です。スピードもぐんと落ちて辺りの風景もはっきりと見えて来ました。前方に黒い何かを目にした田之助は、あれは何であろうかと思っていましたがすぐ目の前に来た時、それが「亀」であることがわかりました。そのときナビ大王は、何がどうなるかはすべて知っていました。

 ナビ大王は田之助がどうするのかと黙って見守っていました。田之助はそこを通り過ぎるとき亀が田圃に渡ろうとしているのを見て、頭を何かで叩かれた感じになってハッとしました。

あっ亀が危ない
田圃の中は農薬が危ない
亀をどこかに移動させなければ

と、田之助の心は早鐘を打っていました。

キャプション: びわ胡近くの路上で出会った亀(左下)びわ胡近くの路上で出会った亀(左下) そのことを知ったナビ大王は、いのち舟を素早くUターンさせて亀の前にぴたりと停止させたのです。喜んだのは田之助です。寸前のところで横断されれば亀を見失うところでした。亀の前で田之助は、

田之助「農薬のない

きれいな水に連れて行くから安心してください。
私は田之助という者ですが、
いのちにやさしい自然の田圃を
目指しています」

と自己紹介しながら少し前方を見渡しました。そこには願ってもないお寺の池があることを知りました。看板には、国・名勝庭園興聖寺(旧・秀隣寺)と書かれていました。

 どうしてこんなにタイミングよくここにお寺があるのか、田之助は不思議千万でした。その思いはナビ大王に同時中継になっています。田之助には、いのちの世界を大いに体験してもらい、納得ゆくまで学んでほしかったナビ大王は、ひとりニコニコしていました。また舟の後ろではかずたま姫もニコニコしながら田之助の行動を見守っていました。キャプション: お寺の池に放した亀お寺の池に放した亀

 田之助は迷う事なくその亀を名勝の庭園の池に放しました。

 澄み切った池の水の中には生き物は何も見当たりません。亀は今日からここの主になったのです。ほっと安心した田之助は亀と共に幸せ気分になりました。いのち舟に戻ると、よいことをしたなあ…と、ナビ大王も大変喜んでくれました。そして、亀との再会を思いつつ、いのち舟は一段と光を輝かせてそこを出発したのです。

 田之助の心は亀のことでいっぱいでした。出会った亀に名前をつけて一緒の旅をしようと考えていた田之助に、亀にばっちり似合う名前が浮かんで来ました。ここの国道は三六七号であるからと、その二字をいただいて、「ミロクの亀」(三六の亀)と名付けました。

 そのことを言わずと知ったかずたま姫は、ことのほか喜んで声をかけてきました。

かずたま姫「田之助さん、

いい名前ですね
国道の二文字を戴くとはあなた今日は冴えていますね
ミロクの亀(三六の亀)は天地に通じる名前です
仏教では弥勒菩薩といいますね
今日からはミロクの亀と一緒の旅となったのですね
奥さんも喜んでいますよ」

 かずたま姫は、数霊の三六と一体の名前を知って、ことのほか喜んだのでした。ナビ大王はミロクの亀(亀の魂)が乗船したことですごく張り切っていました。そして田之助はミロクの亀と一緒になったことで旅の前途が広がって来ました。

 すでに京都を通過して神戸港から瀬戸内海の上を進行中です。ナビ大王は上機嫌でアドリブの歌を唄っています。

 

空は青空 心も青空
海はそよ風さざ波わたる
気分上々ミロクの亀よ
かずたま姫も
ナビの大王このわしも
田之助乗せていのち旅
天下晴れての亀の旅

 

 田之助には行く先々はわかりません。ミロクの亀の魂が加わっていよいよナビ大王は張り切っています。縁結びはすべてナビ大王の舵取りです。いのち舟は淡路島に上陸しました。水平線の上はうっすらと白んでいるものの、島はとっぷりと夜のとばりに覆われていました。いのち舟はしずかにエンジンを休めることにしました。ここは津名町佐野地区の海岸です。田之助はうとうとしながら今日の出会いを振り返っていました。側では新入りのミロクの亀がムガムガムガムガ…と寝息を立てて眠っています。それにつられて田之助も深い眠りの世界に入っていきました。

 するとどこからともなく呼ぶ声が聞こえてきました。

?「シゲル シゲル シゲル…

オマエハ シゲルデハナイカ…」

 はっと気づいた田之助は、

田之助「私の名は田之助です。

シゲルではありません」

と答えると、

?「いやいや

お前はいのちの親さまが名付けた心の名前
即ち 心の名前の〝田之助〟なのだが
この旅の前までは〝シゲル〟という名前だったのじゃ
本名は〝しげる(茂)〟なのじゃ
田之助はいのちの世界の名前なのじゃ
お前はなあー田圃で育ったお米の子であるから
いのちの親様は田之助と呼んでいるのじゃ
こちらは、自動車や飛行機が飛び交う現実の世界なのじゃぞ
今は 田之助と名乗っていのちの世界で勉強中の学生なのじゃ
また 夢の世界で逢いに来るよ」

と言い終えるとその声は消えました。

 確か同じようなことを旅の始めにいのちの親さま(天の声)から聞いていることを田之助は思い出していました。が、その声とはやはり違っていることは確かでした。田之助はその声の主に夢の中で「夢オヤジ」と呼び名をつけました。そんなとき、今度は姫の声がひびきました。

かずたま姫「田之助さん、

夢の中で聞いていてくださいね
この宇宙の調和原理は…
数のいのちが中心となっているのですよ
少しむずかしいと思うけどそのことを知っていると
この旅も楽しくなるから忘れないでくださいね
数のバランス、即ち量のバランスと言ってもいいけれど
いのちを造っている元素の配分で
田之助さんの体も出来ているのですよ
何につけても数のバランスが
その鍵を握っているんです
だから数字には大切な意味があることを
知っておいて下さいね
またいのちの元素は毎日の
〝食事〟からいただいているんですよ」

と言い終えると夢の中の姫の声も消えてしまいました。こうして佐野漁港の一夜は田之助の学習時間になっていたのです。

 少し寝不足気分で朝の目覚めを迎えたその日は、六月二二日金曜日・四時五九分の起床となりました。

 ナビ大王は夜中の夢のことを漏らさず知っていました。ナビ大王こそ縁結びの要のお方です。いのちの親様の信任をうけて、人の世の鍵を握っているのです。大王はそんな気負いも一切持たず、少し茶目っ気さえあって楽しいお方です。

ナビ大王「田之助くん

目が半分閉じているんだがどうしたんですか」

 田之助の寝不足の理由を知りながらナビ大王は田之助をからかっています。

ナビ大王「今日は晴れて

気分のいい日ですねえ
田之助くん お前の誕生日は二二日ですし
今日はめでたい二二日であるから
日本最古の神宮に行くことにしましょう
いざなぎ神宮です!
しっかりつかまっていてくださいね」

と言い終わると、無音光速エンジンに点火して一気に神宮めざして発進しました。

 何事かと目覚めたミロクの亀は、あっ感じる! 感じる! といいだしてしきりに何かを察知している様子です。田之助には、ミロクの亀が何を感じているのかいっこうにわかりません。キャプション: 浄水水口の翁亀浄水水口の翁亀

 いのち舟はいざなぎ神宮の浄水所に到着しました。ナビ大王は、田之助が何を感じてくれるのかやさしく無言で見守っていましたが、その時、ミロクの亀が一番に喜びだしたのです。浄水の水口には「翁亀」が待っていたのです。田之助もそれに気づきました。来る途中でミロクの亀が、感じる! 感じる! としきりに言っていたのは先輩の翁亀のことであったのです。

 そればかりか、神池に廻ってみるとそこには天高く一筋の噴水を吹き上げている「翁亀」があらわれたのです。田之助とミロクの亀は跳びはねて喜びました。それには、絵図面を描いてくれたナビ大王のやさしい心くばりがあったのです。キャプション: 噴水台の翁亀噴水台の翁亀

 いざなぎ神宮は、国内一一万神社中最古の神社です。祭神は、いざなぎの大神といざなみの大神の二神です。今の伊勢神宮に移す前に、国始まりの二体のご神体として祀られたという神宮であります。

 ナビ大王とかずたま姫は、いのち舟の前後に陣をとって、田之助を守り、心をしっかり受け止めて、次々と出会いの縁を結んで下さっています。そのことはずばり、田之助の心掛けひとつで運命の明暗の扉が開閉するということにもなります。

 いのち舟は光の舟です。舟の行き先を遮るものはありません。田之助は、ミロクの亀と出会ってから、そのことがうっすらと判るようになってきました。

 いのち舟が次に立ち寄ったのは、源義経の妻・静御前の墓の前です。いったん停止して、一際かがやく光を三回点滅してあいさつをすると、次の案内へといそぎました。そこは高田屋嘉兵衛記念館です。

 高田屋嘉兵衛は、日本海の西回り航路を開いた回船業者ですが、田之助の生まれた酒田港には特にご縁の深いおかたであります。

 ナビ大王には不可能は無いにひとしく、田之助に必要なことだけを学ばせて次へと進んでいきます。今度は、大鳴門橋記念館です。巨大な渦潮のうねりが大地にまでひびいてきます。

 海底の地形と潮の干満による渦潮はさながら宇宙のブラックホールにも似てあらゆるものをのみ込むようなのです。また台風の渦巻きのようでもあり、自然エネルギーはそれ自身いのちの調和力と考えている田之助は、いのちの不思議な力にのめり込んでいきます。

 いのちは常に呼吸をしています。草木も動物も、ミクロの世界の生き物たちも、マクロ世界の宇宙にしても、あらゆる存在が呼吸をしている…呼吸はいのちの根本機能なのだと田之助は、いつになく難題をもちだして自問自答していました。ナビ大王もかずたま姫もそのことをよく知っていました。

 このまま田之助が渦潮とこれ以上向き合っていると次へ進むことすらできないほどに真剣でしたので、明日のことを思ったナビ大王はいのち舟を出発させたいと思っていました。それを察してミロクの亀が田之助に「先に行ってもいいかい…田之助くん」と、声をかけるとはっと我に返った田之助は

田之助「いけねぇ、

いのちのことは
ナビ大王たちに聞けばよかったんだ
すまんすまん」

と言いました。ナビ大王は明日のことを優先させていのち舟を発進させました。しばらくして到着したのは今夜の宿泊地、香川県引田町内の誉田八幡宮の境内です。舟のデジタル時計はPM・八時〇九分と表示されています。

 今夜は旅に出て四日目のことであり、もっとも疲れがたまるころであり、ナビ大王は田之助を早めに休めることにしたのです。

 田之助はものも言わずにすぐ深い眠りにつきました。ミロクの亀も田之助に寄り添ったまま眠っていました。それを見ていたナビ大王は左目をパチリとまばたきすると、ナビ画像がでてきました。映し出された画像を見ていたナビ大王は、明日は忙しく賑やかになるぞ、と確かめてから右目をパチリとやって画像を消しました。

 ここで人類の未来映像を見ようと思えば、即刻、ナビ大王には門扉が開かれますが、いのちの親様からは、そこまでの許しをもらっていません。今は人間たちの心と運勢運命、そして、縁結びを担当するだけです。それでも、いのちには休みはありません。ナビ大王は年中無休で地上生命たちに奉仕しているのです。

 夜は明けて日付は六月二三日・土曜日となりました。五時二五分に起床したばかりのところにひょっこりナビ大王が顔を出しました。というより、田之助には顔が見えないから「声の顔」といったらいいのかもしれないのですが。

ナビ大王「田之助くん

おはよう
ちょっと早いが学びと思って聞いてください
というのは…亀のことですが
亀というのは文字ですよね
この文字というのは
心に思うと生きてくるんですよ

 

「前編―旅立ちから屋久島へ」(p.33まで)より

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米(食物・自然界)の生命愛に身も心も重ねることで、波乱万丈な人生もどんなに苦しい思いも澄み切ったものへと昇華した著者夫妻。その二人が遭遇した共振共鳴共時の記録は、「こころとは」「いのちとは」という命題に対する答えの証しです。